生物学研究者の言いたい放題ブログ

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「査読で不正を見破ったときの話」について1

前回、前々回と査読の時に不正を偶然見つけたという体験記を書いた。

査読で不正を見破ったときの話1 - 生物学研究者の言いたい放題ブログ
査読で不正を見破ったときの話2 - 生物学研究者の言いたい放題ブログ

一部の読者である同業者の方や、検索で来た同業者の方と情報というか経験を共有できれば程度に思っていたのだが、予想以上にはてなブックマーク等の反響が大きくてびっくりしている。その中でいただいたコメント等のうち、いくつか気になるものというか、こちらからの意見を書いた方が良いかと思うものがあったので今回はそれらについて淡々と書いていく。

まずは査読で不正を見つけた論文の著者達だが、幸いなことに3報とも日本人ではない。すべて外国人(所属も外国)の論文である。さすがに同じ分野の日本人であれば何らかの形で告発するだろう。

また「査読で不正を見破ったときの話1」の最後に書いた不正論文の著者らの先行論文にもどうやら捏造データがあるということ。これに関しても何らかの形で告発をするべきという意見をいただいた。ごもっともではあるのだが、まだ取り下げていないところを見ると、おそらく著者らは既に言い訳を考えており、抗議をしても無駄に終わるだろう。取り下げていないということは、PIもグルだろうかと邪推してしまう。とりあえず様子見である。

残念なことにこのような不正というのはあくまでも氷山の一角でしかないだろう。今回は極めて杜撰な不正行為だったからこそ偶然見つかった。しかし、仮に写真の使い回しでは無くサンプルをそのまま流用してもう一枚別のゲルを撮影していたら?不自然な数値のグラフではなくそれらしい偽データを用意したグラフだったら?考え出したらキリがない。

「生データ」「実験ノート」も完璧では無い。本気で不正をしようと思えばその時点から徹底して不正を行うだろう。そしてそのような不正は最終的に見つかることはないか、業界内で「再現性が取れない著者」として有名人になる程度だろう。仮に有名人になっても生物学特有の再現性の取りにくさも手伝い、不正とは断定できないところが難しい。実際に私自身も場所が変わっただけでも再現できないようなことを経験したことがある。同じ大学内の別の場所に移ってしばらくは過去の結果が再現できないことがあり、焦った。結局はバッファーのpHが微妙に違った、使っていたプラスミドと大腸菌の株が合わなかったなど些細な違いであった。生物学は本当に難しい。

研究は究極的には信頼のみで成り立っている。おそらく不正をする輩には何を言っても無駄なのだろうが、どうか不正が少しでも無くなることを祈るのみである。

以上。