生物学研究者の言いたい放題ブログ

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学振DCの意義を問う

博士課程に進学する人の憧れ、学振DC。通称学振。これは月に給与が20万ももらえる素敵な制度で、さらに研究費もつくというスペシャルな待遇である。「学振持ち」なんて言葉があるが、学振が無いと収入がゼロになる(RA、TA等を除く)ので、これがあるかないかで博士課程在籍時の暮らしっぷりは変わる。

自分は残念ながら学振DCに採用されることが無かった。当時は負け組であると自覚している。それはそれはつらい生活で、修了後の借金に怯えながら日々戦っていた。ということで恨みを込めて学振DCの批判をしよう。

実は学振DCが何のために存在するのか知らないし調べる気もないのだが、おそらく優秀な研究者になるであろう者が研究に専念できるように金銭を補助するという意図であろう。もしそうであるのならば、学振DCは機能していないケースが多い。

まずはこの20万円という金額。もちろん就職組にはかなわないが、それなりの収入であり、よほど家賃の高いところに住まない限りは金銭的余裕が出てくる。これがよくない。金銭的余裕はストイックな人間以外を駄目にする魔力を持っている。飲みに行ける。服も買える。旅行にも行ける。誘惑だらけである。生活には困らないがギリギリ(多分、都心部でも無い限り一種奨学金の12万ちょいがそのラインになるのだろう)くらいがサポートとしてはちょうど良いのではないかと。そうすることによって、学振DCの恩恵にあずかる学生の「数」を増やすこともできる。学振をもらってダメになった学生を嫌というほど知っている。

【4/24追記】 これは国民健康保険を考慮していなかったので+国民健康保険か。あとは副業(TAやRAなど)を認めるという条件も必要だろう。

そして審査にも疑問が残る。申請書の内容を元にして審査するわけだが、研究内容に関してはよほどのことが無い限りは指導教官に依存するだろう。申請書に指導教官や先輩の意見も入ると、もはや学生の評価には何も役に立たない。業績に関しては論文を書いたことがあるとよいわけだが、これは完全にそれまでに所属した研究室の方針に依存する。インパクトファクター1程度の雑誌でも学生のために論文を何とかしてくれるような教員がいれば博士課程に入る前に1,2報出すのは簡単だろう。あるいは、教員の言われた通りにやっていただけの学生もたくさんいるだろう。ということで、本当に学振DCの意義に見合った審査ができているのかは疑問である。

そして極めつけは大学院での業績である。学振DCの有無によって業績を比較されたことがあるのだろうか?いわゆるモラトリアム的な感じで博士課程に進学した学生を除くと、少なくとも私の周りの学生たちは学振DCの有無と業績の相関は無い。また、学振を取っていてその程度の業績(失礼)なのか...と絶句してしまうような場合もある。それでも学振を取ったことは履歴書やその後の研究費の申請書にも書ける立派な「業績」になるのだ。何かが間違っている。

ということで上記のとおり、学振DCはせめて額を減らして、数を増やすべきだと思う。博士課程の学生に「月20万か借金か」の世界を体験させるのは酷すぎる。少なくとも学費を支払ったうえでさらに「労働力」という点で日本の科学を担っている博士課程の学生さんなのだから。

でも最近、周りの学生さんの学振DC取得率が高すぎてびっくりする。私にも研究費ください。

以上。