生物学研究者の言いたい放題ブログ

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査読で不正を見破ったときの話1

査読は面倒だ。最近はいくつかの雑誌でその年のreviewerリストを公開しているようで、それなりの雑誌に名前が載っているとうれしいのだが、それ以上でもそれ以下でもない。ただ現状では査読システムがないとうまく科学が回らないのも事実で、科学に少しでも貢献できればと思って自分の時間を削ってでも基本的に引き受けることにしている。

そしてこれまでに査読において3回「不正」のある論文に出会った。後進のためにも情報を記そうと思う。

1つめは少し前の話。査読で回ってきた論文がいわゆる捏造論文だった。研究室レベルでは過ちが起こらないように性悪説に基づいた対応も必要かと思うが、査読は性善説に基づいて行われる。いつぞやの事件の時になぜ査読者が捏造を見破れなかったのか?などと世間でも問題提起されていたこともあったが、そんなものは査読者の義務ではない。

ということで基本的によほど怪しい論文以外は捏造を疑いもしないのだが、偶然にも気づいてしまった。

その論文には捏造が2つあった。1つはありがち(?)なバンドの写真の使い回し。もう1つは不自然なグラフ。つまりその実験からはありえない値がグラフで示されていた。両方とも普段だったら見逃していたかもしれないが、偶然に偶然が重なり、捏造を見破ることができた。その偶然とは、

  1. 偶然にもその著者らの先行論文を読んでおり、その先行論文のFigをぼんやりと覚えていた。
  2. 論文の書き方があまりうまくなく、上記の先行論文との線引きがうまくできていなかった。
  3. 偶然にもそのタイミングに似たような実験をしていた。

ということである。

捏造を発見するまでの一連の流れを書いていくと、まず査読の際にはFigをざっと見るのだが、そのときに「前の論文とFigの流れが一緒だな〜」くらいの気持ちで見ていた。

本文を読むとやたら先行論文の話が引用なしに混じっていたので「Major revisionでイントロ書き直しだな」と思っていた。そのためにはコメントとして具体例を書かなければいけないので、先行論文を熟読しようとした。そのときである。

「Figの流れどころかFigそのものが似すぎじゃない?」
「こいつら怪しい」
「よく考えたらこの実験でこのグラフ、ありえなくない?っていうかあり得ない」
「こいつら論文全体でやってる」

こんな感じで思考は進み、査読を始めてから30分程度で疑惑は確信に変わった。貴重な時間を削っているにもかかわらず捏造論文が回ってきたので内なる怒りが爆発。

著者にはとりあえずイヤミたっぷりのコメント。「内容が先行論文とmixed upされている。図も先行論文のものとmixed upされている。図のラベルと大きさは変わっているけどね。あと、グラフおかしくない?その実験じゃそうはならないよね?ってことで、先行論文と今回の論文の両方の生データ全部見せるべし。」(実際はもっと丁寧な言葉)みたいな感じで。5行くらいだったと思う。もちろん弁解の機会を与えるためにMajor revision。

そしてエディターには「こいつら捏ってるだろうからよろしく。判断は任せる。」と、パワーポイントに酷似したFigを2つ貼った参考資料まで準備して発射。

そして1ヶ月後、当たり前のことではあるがrejectになった。どういう弁解をするのか少し見てみたかった気持ちもあるが当然の判断であろう。今回は運が良く捏造を見抜けたのだが、偶然が重ならなかったら見過ごしていたかもしれない。それを考えると科学論文とはおそろしい。

ちなみにこの論文の投稿先はお世辞にも良い雑誌とは言えないインパクトファクター1.5くらいの雑誌である。これくらいの雑誌であればばれないと思ったのであろうか?

最後に、今悩んでいることある。なんと先行論文にも同じようなありえないグラフがあるのだ。おそらく先行論文も捏造なのであろう。こちらをどうすべきか...あまり考えたくもない悩みである。

以上。そのうち2、3も。